趣味でデニムを縫うのが難しい理由

初めまして、ダンジョデニムの福川と申します。

私はジーンズの聖地と呼ばれる岡山県倉敷市の児島でデニム製品を製作しております。高校時代からGジャンが好きで、2017年に茨城から岡山に移住して個人ブランドを立ち上げて製作を続けております。

また、児島のアパレル業者達とYouTubeチャンネルも運営しており、
おかげ様でチャンネル登録者数が5万人に到達しました。

商品は主にオンラインで販売していますが、ハンドメイドサイトcreemaでは100人以上に作家フォローして頂いたり、商品レビューもいただけるようになりました。

さてさて、コロナ禍によって自宅でマスクを縫う方が増えました。それによってミシン需要も高まり、縫製人口も増えました。それ自体は私にとっても嬉しいことであり今後も増え続けてくれればと願うばかりです。

そして中には工業用ミシンを購入して本格的な縫製をスタートされる方も出てきました。コロナ禍の前からminneやcreemaなどのハンドメイドサービスは人気が高まっていたので、きっとそういったサイトを活用して副業として自分たちで縫った商品を販売する方も増えているのだと思います。

ただ、そうは言ってもデニムを縫うのはなかなかハードルがあり、趣味で続けていくには厳しい壁があります。

この記事ではデニムを縫うのがなぜハードルが高いのか?私なりに考察したことをお話しします。

それでは、まいりましょう。

目次

1. デニムを縫う壁

デニムと言っても薄手のデニムもあるのですが、今回は私が普段取り扱っている12~13オンス程度の中程度の厚さのデニムとお考えください。

1-1.壁①「工業用ミシンが必要」

デニムを縫うのが難しい理由と言うと「厚いから針が刺さらない」のが一番最初に挙げられます。実際そうです。1枚2枚縫う程度でしたら家庭用ミシンでも縫えるのですがジーパンやGジャンは折り重なった部分が8枚重ねになったり10枚以上の重なりになったりしますので、そうなったら家庭用ミシンでは基本無理です。固い瓶の蓋を開けるがごとくプーリー(ミシンの右側にあるローラーのようなもの)を手で回しながら縫い進めなくてはなりません。当然針もブレて縫い目も荒く汚くなってしまいます。針が折れてしまうこともあるでしょう。針が折れると心も折れるんですよね…。

職業用ミシンでも縫えなくはないのですが安定して速く縫えるのは断然工業用ミシンです。それも厚物用の工業用ミシンがほしいところです。工業用ミシン…聞いただけでハードルが高そうですよね。実際、値段も高いしミシン台を含めて非常に大きいです。

1-2.壁②「しかも何台も必要」

壁①で言っている工業用ミシンというのは直線しか縫えない本縫いミシンになります。直線だけです。家庭用ミシンだと1台で直線もかがり縫いも飾りステッチもボタンホールもできてしまいますが工業用はそうはいきません。工業用ミシンは基本1台1役です。そしてジーンズを縫うには1台だけでは足りません。何台も必要になってきます。ちなみに私はオリジナルのGジャンを縫っているのですが、

  • 厚物用本縫いミシン
  • 巻縫いミシン
  • 閂止めミシン
  • オーバーロックミシン

の4台を使用しています。それぞれ高額でサイズも大きいです。新品で買うと1台何十万円もします。趣味レベルで払える金額ではありません。仮に買っても使い方やメンテナンス方法が分からなければ使えません。懇意に相談できるミシン屋さんがいないと厳しいでしょう。もっと言えばアイロンだって業務用のが必要ですし、生地を裁断する裁断台も必要になってきます。うーんお金かかりますし、家の広さも必要ですね…。

ちなみにジーンズを縫う工房なら普通はもっとたくさんミシンがあります。本縫い、巻き縫い、閂止め、オーバー、ボタンホール、ベルトループ...などなど。それらミシンは使ってないと錆びて壊れますから定期的に動かさないといけません。

1-3.壁③「騒音」

本縫いミシンはスピードを出さなければ意外と静かに縫えます。ただ、ボタンホールや閂止めなどはどうしても音を出しますし、意外とうるさいのがアイロンのバキューム音。賃貸やマンション住まいの方にとっては下の階や隣に迷惑がかかったらどうしよう…と心配になるんじゃないでしょうか。

1-4.壁④「縫い方が分からない」

裁縫は図書館でそういった本を読むことでなんとなくは理解できると思います。学校の家庭科の授業で教わることもあります。ただしジーンズやGジャンの縫い方の本って…見つからないんですよね。私は関東に住んでた頃、ジーンズの縫い方が書いてある本を探したりネットで縫い方を探しましたが見つかりませんでした。

また、全国各地に洋裁教室がありますが、ジーンズの縫い方を教えてくれるのは数えるほどです。理由は簡単です。先述したように工業用ミシンを何台も用意しないといけなかったり、騒音問題だったりで、教える環境を作るのがまず大変なんです。教える環境を整えたとしても洋裁教室に来られるのは女性が多いんです。女性で厚物のジーンズを縫いたい方は正直あんまり見かけません。ほとんど男性です。少ない男性の生徒さんのために工業用ミシンを何台も用意できる教室がいかほどあるでしょうか。

1-5.壁⑤「厚物は縫うのが疲れる」

厚物を縫うのって疲れます。縫うこと自体はミシンが頑張ってくれるので疲れないのですが、縫い上がっていくにつれてパーツが大きくなっていくので、それを針の下に持っていく動作や方向転換するために生地を回したりする動作が体力を消耗します。

1-6.壁⑥「色移りする」

これはそんな大した壁ではないのですが、デニムの特性上、インディゴの青が色移りします。染色によっては手が真っ青になったり、ミシンやアイロンに付着して白い生地を縫うときにそれが移ってしまうこともあります。ですからデニムを縫った後に白い生地を扱うときは一度設備を綺麗に拭き掃除する必要があります。ちょっと手間ですね。

2.壁を突破するには

上記の壁を知って、それでもデニムを縫いたければ…その壁を突破できる方法がないか私なりに考えました。

2-1.方法①「産地とのつながりを持つ」

結論、これだけでだいぶ道は開けるのかなと思います。実際私も茨城からデニムの産地である岡山に移住することで一気に知見が深まり、色んな業者さんと知り合うことができて、自分のブランドを作り上げることができました。

移住までしなくてもいいのかもしれませんが、やはりその土地に住むことで得られる情報はそうでない場合と比べて段違いです。そして縫製に限ったことではないですが職人は基本的に汗をかいてない人を認めません。体を張って汗かいて頑張ることで、周りの方々が壁を突破する方法を教えてくれることもあると思います。

2-2.方法②「周りに迷惑がかからない場所に住む」

騒音問題については、周りに住宅が多く存在しない場所に居を構えることで解決できます。ちなみに産地に移住すると騒音問題は割とクリアしやすくなります。似たような工場が集まる場所に住むことによって騒音については許容されやすくなります。夜中まで作業するのは自制が必要でしょうが…。

2-3.方法③「補助金を活用する」

工業用ミシンは高いです。高いですが、創業用の補助金や持続化補助金、ものづくり補助金などを活用することができます。実際、大きな設備投資をする場合は補助金を活用して購入される業者さんが多いです。

3.最後に

いかがでしたか。デニムを縫う難しさって、それは単純に縫うのが複雑とか厚いから針が刺さらないだけではなく、設備を買い揃えてメンテンナンスできて騒音問題をクリアして広い場所を確保して、近所にミシン屋さんがいて…など環境づくりのハードルが高いため難しいのです。また、縫い方も特殊なので教えてくれる場所が限られています。逆に言うとそれだけハードルが高いということは新規参入も難しいということです。縫製業は生涯続けられる仕事だと信じています。もし本気でデニムを縫いたいのであれば頑張ってみる価値はあると思います。
私のようにミシンの環境が整った場所で自社のデニム製品を縫いたいのであれば倉敷市にある児島産業振興センターのインキュベーション施設の入居を強くオススメします。